2020年4月3日 公開

子どもにどう危機管理意識を持たせる?カナダのStay Safeスキル

子どもに安全への意識を持たせるのは難しいと感じていませんか?カナダには留守番、公衆衛生、応急処置について学ぶ小学生向けの安全講習会があります。小学6年生の息子は参加後「もしもに備える」意識が芽生えました。感染症対策にもなった、講習会の内容や学びを紹介します。

「自分の身は自分で守る」意識が弱い子どもたち

Tatiana Gordievskaia / Shutterstock.com

日本では、小学生に留守番をさせるのはそんなに珍しいことではないと思います。また、学校の登下校、習い事の往復、友達と遊びに行くときなど、子どもだけで外を移動することも多いと感じます。

家庭の事情で親が子どもに始終付き合うことが難しい現代。大人の目がないところでの子どもの安全については、親の心配はつきないことでしょう。

やってはいけないことを伝えることはもちろん大切です。そして、事故や危険なことが起こったときに、どう行動すればいいのかも教育することが理想です。とはいえ、実際に子どもにそこまで家庭で教えるのは難しいですよね。

治安のいいと考えられている日本でも、近年では子どもが巻き込まれる事件・事故が増えています。自然災害も多発し、予期せず子どもと隔離されてしまうことも考えられます。だからこそこれからの時代は、子どもの頃から自分の身は自分で守ることを習慣づけ、安全への意識を強めることが大切です。

それは筆者の暮らすカナダでも同じ。カナダではどのように子どもに安全に対する意識を持たせているのかについて紹介していきます。

カナダの教育事情:子どもに教える「気を付けよう!」の意識

fizkes / shutterstock.com

カナダには、幼い子どもに留守番をさせる習慣がありません。そのため、小学生でも”ベビーシッター”を雇う場合もあります。

これは治安が悪いというより、子どもを一人にしておくのは、いろいろな意味で危険だという意識が強いからです。ただし、だからといって、子どもたちがいつまでも自分の安全を他人任せにしていては困りますよね。

筆者の息子は小学6年生(11歳)です。家や街の中での危険に真剣に向き合い、安全に過ごすことを意識しているか?と聞かれれば、正直なところ自信がありません。好奇心が旺盛で、おもしろそうなことに対しては、安全よりも「やってみたい」が優先されていることがよくあります。

また、学校でも安全対策に関する授業はしっかりとは行われていません。

そのかわり、カナダ赤十字社では「Stay Safe(安全に)!」という子ども向け安全講習会を開いて、安全への意識を高める機会を提供しています。
※カナダの子どもの留守番事情については、こちらの記事でも詳しくお伝えしています。

カナダの子ども向け安全講習会「Stay Safe!」とは

安全講習会「Stay Safe!」のワークブック
via photo by author

「Stay Safe!」は9~13歳を対象とした講習会
で、時間は5〜6時間。受講料は42カナダドル(日本円で3,200円程度)です。

赤十字が指定した会場での個人受講や、学校が希望者を募って学校を会場にした団体受講ができます。学校の授業のように必須ではなく、希望者のみ受けられるものです。

この講習会の主な目的は、次の2つです。

(1)子どもたちが実生活でぶつかることになりうる困難に対応するスキルをつける。
(2)一人で留守番をしているときやコミュニティーの中で、子どもが自分で安全に過ごす能力を高める。


2020年2月に筆者の息子も、自分が通う小学校で開催された「Stay Safe!」の講習会に参加しました。

20人ほどのグループで、ワークブックを使ったり、実際に体験したりしながら講習を受け、受講後には修了証をもらってきました。内容と効果を詳しく紹介します。

【体験談】安全講習会の主な内容と子どもの感想は

「Stay Safe!」の修了証
via photo by author

講習会は、留守番中に起こりうる危険が潜むシチュエーションに、どう対応すればいいのかを話し合うことからはじまったとのことです。

たとえば「留守番中に約束をしていない友達が遊びにきたら」どうするかなどについて、子どもたちが意見を出し合い、講師から正しい対応方法を習いました。この正解は「帰ってもらう」です。これについては、実際にわが家に突然遊びに来そうな息子の友達の名前を出して、息子とどのように対応するのか話し合いました。

また、家や街の中に潜む危険についてクイズなどを解きながら学んだそうです。ワークブックの中には、殺虫剤や洗剤など子どもが勝手に触ってはいけないものの絵が描かれていて、危険なものに丸をつけてチェックしました。

講習会では、さまざまな救急対応や応急処置についても学んだよう。ワークブックには、気を失った人を見つけたとき、誤飲、ぜんそくの発作、切り傷、やけど、鼻血などの応急処置の方法が子どもに分かりやすいように、写真付きで説明されています。

また実技として、腕の骨が折れたときを想定して、実際に三角巾で腕を固定してみた、とも話していました。

●講習会を受けた息子の感想

応急処置の体験がとても参考になったという息子。

講習の後、誤飲の対応や倒れている人を見つけた場合の対応を家でもやって見せてくれました。6時間ただ座って講師の話を聞いているのではなく、子ども同士で実践できたのが楽しかったとのことです。

●安全講習会を受けた後の息子の変化

息子が作ってくれたバンソウコウ入れ
via photo by author

講習会を受講して息子に芽生えたのは「もしものときに備えておく」気持ちです。講習を受けた日に、息子に頼まれて息子用の救急セットを一緒に購入しに行きました。救急セットは学校にも持って行っています。

また、筆者用にはバンソウコウ入れをフエルトで作ってくれ、いつも持ち歩いているバッグに入れてくれました。

感染症対策にも!日頃から正しい手洗い方法を

Oksana Kuzmina / shutterstock.com

カナダでは、カゼやウイルス感染症の予防にマスクを付ける習慣はありません。街でマスクをしているのは病気の人という認識です。新型コロナウイルス感染症についてのケベック州からの通知にも、マスクのことは書いてありませんでした。

公衆衛生で重視しているのは、とにかく手洗いをすること。「Stay Safe!」のワークブックに書かれている手洗いの方法を紹介しますので、感染症対策の参考になれば幸いです。

1.蛇口を開いてお湯を出す。
2.手を濡らして、石鹸をつける。
3.30秒以上かけて手全体を洗う(「ハッピーバースデー」を2回歌うぐらいの長さ)。
4.温かい流水で手をすすぐ。
5.ペーパータオルまたは清潔なタオルで手をふく。
6.公衆トイレを使用した場合は、ペーパータオルで覆って蛇口を閉める。その後、ペーパータオルをゴミ箱に捨てる。


頻繁に手を洗っているつもりでも、洗い方が間違っていれば効果があまりなくなってしまいます。親子で正しい手洗いを確認してみてくださいね。

講習会では、くしゃみやせきをするときは腕で口と鼻を覆うこと、鼻をかんだティッシュはすぐにゴミ箱に捨てること、体調が悪いときは家で休むことも大事であることを学んだそうです。

子どもが安全についての意識を持てるように

Monster Ztudio / shutterstock.com

講習会の最後には、「安全に過ごすために普段からいい習慣を身につけておくことが大切」と説明があったと話す息子。

たとえば、部屋は整理整頓しておく、一人で過ごす時間は家庭で決めたルールを守る、食べ物はよく噛んで食べるなど、普段から意識しておけば防げるケガや事故はあるはずです。

家庭では、子どもが危険なことをしてしまったときに、親がイライラした状況で安全や衛生管理について話すことが多いかもしれません。けれども、何かが起こってしまってから教えたり、対策をしても遅いです。

平常時に余裕を見つけて、ぜひ子どもとさまざまな危険について話し合ってみてください。子ども自身が「気をつけよう」と考えるきっかけを家庭で作っていけるといいですね。
著者:LOA
カナダ在住歴17年の英日翻訳者・フリーライター。Web媒体で子育てや教育に関する記事を多数執筆。プライベートでは11歳の男の子の母。母子は日本語、父子はフランス語、夫婦は英語で会話をするというマルチリンガルファミリー。知育マガジンChiik!では「翻訳家ママのバイリンガル教育」も連載中。
<参考>カナダ赤十字社の安全講習会「Stay Safe!」の概要ページ
https://www.redcross.ca/training-and-certification/course-descriptions/first-aid-at-home-courses/stay-safe
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

LOA LOA  カナダ在住の英日翻訳者・フリーライター。Web媒体で子育てや語学学習についての記事を多数執筆。8歳の息子が0歳のときからはじめた絵本の読み聞かせは、今では私たちの生活になくてはならないものになっています。これまでに息子と読んだ絵本や児童書は、日本語、英語、フランス語を合わせて数千冊。息子が笑顔になる絵本を見つけるのが喜びです。