2016年12月2日 公開

本場のフランス婚とは?子どもがいる場合のフランスのカップル事情

日本でもよく話題になるフランス婚(事実婚)。大統領も事実婚をしているフランスには、日本と同じ結婚以外にPACS(パックス・民事連帯契約)やユニオン・リーブル(いわゆる事実婚)と合計3つの選択肢があります。子どもがいる場合どうなるの?フランスの結婚制度について現地ライターが詳しく解説します。

フランス人の結婚観

もともとカトリックの国だったフランスですが、1905年にカトリック教会と政治の分離が法律で定められました。現在の憲法ではLaïcité ライシテ(政治権力と宗教の分離)が明記されていて、公共の場であらゆる宗教色を出すことが法律で禁止されています。2006年時点で60%の国民が無宗教だと答えています。

こういった歴史的背景から、「結婚」はカトリックの宗教的な意味合いを想像させると考える若者や60年代の学生運動に影響された祖父母世代のカップルが多く、そのため結婚以外の形を考える人が多いと思われます。
家族高等評議会のフラゴナール氏によって行われた2013年の調査報告書によると、2013年時点で出生児の56%が婚外子である。

事実婚(ユニオン・リーブル)とは

そうした流れの中で生まれたのが、いわゆる事実婚「ユニオン・リーブル」。ユニオン・リーブルとは、法的な手続きをしていないカップルのことです。ユニオン・リーブルの場合、法的なカップルとしての義務も権利もないのですが、1999年より「コンキュビナージュ(同棲関係)」という法的立場ができ、長期的関係を望んでいるユニオン・リーブルのカップルは役所で証明書を出してもらうこともできます。

フランス大統領フランソワ・オーランドは、20年間カップルであり4人の子どもを持つセゴレーヌ・ロワイヤルとはユニオン・リーブル、その後ファースト・レディとして来日したバレリー・トリエルベレールとはパックス、現在のパートナーであるジュリー・ガイエともユニオン・リーブルというカップルの形を選び、結婚はしていません。

PACS パックス(民事連帯契約)とは

それではPACS パックスとは何でしょうか?

同性カップル、異性を問わず、共同生活を営むカップルに婚姻関係と同等の権利を認め公証する制度です。結婚の場合、カップルは市役所で家族や招待客、証人などの前でサインします。パックスの場合、裁判所にお互いの義務や権利を明記した契約書を提出するだけです。

以前は同性同士のカップルが結婚できなかったためこの制度が生まれたのですが、実際には異性同士のカップルにも人気の制度。フランスでは協議離婚ができず、弁護士などを立てなければいけないためだと思われます。

3つの制度、それぞれなにが違うの?

お互いへの義務

結婚の場合、扶養義務、財産・負債・教育費などの共有が義務づけられています。
パックスの場合、契約書でお互いの義務を決められます。
ユニオン・リーブルの場合、一切の義務はありません。

財産

結婚の場合、共有財産になります。婚前契約で、細かく取り決めることもできます。
パックスの場合、それぞれ別財産になります。契約書で取り決めることもできます。
ユニオン・リーブルの場合、それぞれ別財産になります。

所得税

結婚の場合、共同で申告し、世帯で所得税を支払います。
パックスの場合も、共同で申告し、世帯で所得税を支払います。
ユニオン・リーブルの場合、それぞれ各自で申告し所得税を支払います。

相続

結婚の場合、配偶者は法定相続分は4分の1です。また、婚前契約書や遺言によって、それ以上相続や贈与をすることもできます。居住住宅は1年間居住権があります。
パックスの場合、法定相続分はありません。遺言で指定する必要があります。居住住宅は1年間居住権があります。
ユニオン・リーブルの場合、法定相続分はありません。遺言で指定する必要があります。

別れる場合

結婚の場合、裁判所で弁護士と裁判官の元、離婚のための審理をする必要があります。
パックスの場合、裁判所に届け出を出すだけです。
ユニオン・リーブルの場合、特に何もする必要はありません。
その他にも、社会保障、年金などの面でもそれぞれの形式により手続きが異なります。

子どもはどうなるの?

フランスではなんと半数以上の子どもが婚外子です。
結婚以外の選択肢を選んでも子どもの養育に問題はないのでしょうか。実は親権以外の部分はどの形態を選んでも子どもに対する責任はあまり変わらないのです。以下、具体的ににみていきましょう。

親権

母親に関しては、出産届けを出した時点で自動的に親権が生じます。
父親に関しては、結婚している場合は自動的に親権が生じます。女性同士の結婚の場合、父親に自動的には親権が与えられません。
パックス、ユニオン・リーブルの場合は、父親が認知する必要があります。
また、養子をもらう場合は、結婚しているカップルのみが養子の両親になることができます。パックスしているカップルや、事実婚のカップルが養子をもらう場合、片親だけが単独で親権を持つことになります。

経済的負担

どの形式を選んでも、共同で扶養する義務があります。

別れる場合

どの形式を選んでも、共同親権となります。
片方の親が子供と一緒に住める監護権を持ち、もう片方が定期的に子供と会える面会権を得ることができます。

フランスのカップル事情

フランスのカップル事情、いかがでしたか?フランスでは、結婚しているのか、パックスなのか、ユニオン・リーブルなのか、本人たち以外はあまり気にしません。違いをみてみると、かなり細かく権利や義務が指定されているのが分かりますよね。ただ、その内容は財産分与や税制に関するものが多く、子どもに関するものはどの形式をとってもあまり変わらないようです。そのため、2013年時点で56%が婚外子というのも納得です。

とはいえ、フランスでも地方や保守的な家庭では、現在も結婚を選ぶカップルが主流のようです。積極的にパックスやユニオン・リーブルを選ぶのは、パリなどの都会型カップルに多い傾向があるといえるでしょう。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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kaori kaori  在仏9年目、パリ在住。慶応義塾大学文学部卒業、フランスの大学院で日本語教育学を学びました。現在、フランスのラグジュアリー・ブランドに勤務しつつ、日本語学校を運営しています。現地からフランス流の子育て情報をお届けします!