2018年4月12日 公開

書籍『名門校の「人生を学ぶ」授業』幼児教育に必要なことは?

名門中学・高校に通う子どもたちは、学校でどのような授業を受けているのでしょうか。難関大学へ入るため受験勉強漬けの日々かと思いきや、実際は「受験とは関係ない」授業に重きを置いているようです。書籍『名門校の「人生を学ぶ」授業』から、幼児教育にも活かせる、その授業内容をご紹介します。

おおたとしまさ著『名門校の「人生を学ぶ」授業』

タイトル:名門校の「人生を学ぶ」授業(SB新書)
著者:おおたとしまさ(著)
出版社:SBクリエイティブ
名門校と呼ばれるほどの進学校ほど、受験勉強以外の教育により多くの時間を割いている。
via 名門校の「人生を学ぶ」授業 5ページ
実況中継さながらに、この「受験勉強以外の教育」がどのようなものかを教えてくれるのが、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんの著書、『名門校の「人生を学ぶ」授業』です。

この本では、16の名高い進学校を取り上げ、そこで行われているユニークな授業をレポートしています。

桐朋中学校・高等学校の「なわとび」や、芝中学校・高等学校の「バイオリン」、豊島岡女子学園中学校・高等学校の「裁縫」など、一見すると「それができたから何になる?」と思われるような授業の狙いや教えを知ることで、「教育とは何か」について考える広い視点が得られます。

本書で取り上げられているのは、中学校もしくは高校の授業ですが、中には折り紙を使った授業など、幼児期の学びにも活かせそうな内容が含まれています。3つの特徴的な授業をピックアップしてご紹介しましょう。

折り紙で「知識のその先」の世界を感じる

AnastasiaNi / Shutterstock.com
関西の雄、灘中学校・高等学校で行われている人気授業のひとつが「オリガミクス入門」です。

この授業では、折り紙を使って数学の難問に挑みます。例えば、「コンパスと定規を使って、任意の角を3等分する線を作図せよ」という、ギリシャの3大作図問題のひとつも課題に組み込まれています。

簡単な問いに思えますが、実はコンパスと定規だけでは作図は不可能です。しかし折り紙を決まった手順で折れば角を3等分でき、数学的に証明もできます。

この「オリガミクス入門」は、与えられた問題をテストで解くためだけの数学ではなく、その先にどのような世界が広がっているのかを体験できる点に、大きな意義があるといえるでしょう。

折り紙は幼児の教育にも取り入れやすいアイテムです。一般的に、手先の器用さや想像力を育むのに適しているといわれますが、自分が意図した形に仕上げるには紙をどう折ればいいのか、違う折り方で似た形は作れないのかといった試行錯誤は、子どもの図形認知など、数学的センスを鍛えるのにも役立ちます。

現在、折り紙の技術は、宇宙で使われる太陽電池パネルを広げる方法にも活用されています。「紙を折る」というシンプルな技術が持つ力や可能性を、小さなころから体感するためにも、積極的に日々の遊びに取り入れていきたいですね。

水田稲作学習で本物に触れる機会を得る

I-ing / Shutterstock.com
東大合格率ナンバーワンを誇る筑波大学附属駒場中学校・高等学校。ここでは学校が管理・運営する水田で、本格的な水田稲作学習が行われます。

稲作体験を実施している学校は少なくありませんが、こちらの水田稲作学習は一線を画します。年間を通して、苗床をつくり、種まきをし、田植え、除草、稲刈り、脱穀などを経て精米まで行う本格的なものです。

都心にある超進学校でありながら、学校のアイデンティティーとしてこの授業を継承し続けているのは、多感な時期に自然と触れ合い、生産する喜びを体感して欲しいという思いがあるそうです。

インターネットを通じて、どんな情報や知識も簡単に手に入る時代になりました。しかし、知識をただの知識として終わらせず、実学として役立てるためには、やはり本物に触れ、実体験することが欠かせないのではないでしょうか。

幼児期には、特に多様な体験をさせてあげることが重要だといわれています。自然と触れ合うことはもちろん、美術館やコンサート、ワークショップなどへも積極的に足を運んで、五感を使う機会をできるだけ増やしてあげたいものです。

読み聞かせで能動的に学ぶ

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奈良の大仏で有名な東大寺を母体として設立された、東大寺学園中学校・高等学校。

この学校では、「読書」の時間が設けられています。国語の授業の一環ですが、どのような教材でどんな授業をするかは、各教師に任せられているそうです。

そのため教師は、自分の学生時代の本にまつわるエピソードを生徒に話して聞かせたり、ある物語を中心に道徳のような授業を展開したりと、自由に自分の思う「教育」を行えます。教科書を使った、教師から生徒への一方通行の教育ではなく、本を介して教師と生徒双方に学びや喜びがある「読書」の授業は、生徒たちにとっても楽しみな時間となっているそうです。

子どもへの読み聞かせというと、本を音読してあげることがゴールになってしまいがちです。でも、お話ができるころになったら、その本の内容について子どもと話し合ってみたり、追体験をしたりする時間を作ってみてはいかがでしょうか。

例えば、「さるかに合戦」を読みながら、サルやカニがしたことについてどう思うのか、自分だったらどうするか、子どもと話をしてみましょう。物語の追体験を行うために、子どもと一緒におにぎりを作り、柿の種を植えてみるのも良いかもしれません。

「本を読み終える」というゴールに一直線に向かうよりも、他人の意見に耳を傾けたり、実際にやってみたりといった「寄り道」があることで、学びは能動的になり、学ぶ楽しさも倍増するでしょう。

「成果」がすぐには見えない教育の価値を認めよう

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本書を読むと、名門校では知識や技術以前の、「生きる力」を鍛えることに力を入れていることがよくわかります。

未来の見えにくいこの時代、子どもを抱える親は不安のあまり、読み書き・計算・英語・プログラミングなど、「わかりやすく成果が見える」教育を子どもに与えがちです。

もちろん、そういった知識や技術は決して無駄にはなりませんが、「どんな状況にあっても自分の力を使って生き抜こうとする精神」がなければ、せっかく学んだ知識も技術も活用できなくなってしまいます。

この本の中で取り上げられている授業を参考に、「成果」ばかりを効率的に追い求め過ぎず、「生きる力」を養う教育にも力を入れ、逆境にあっても強くたくましく生きる子を育てていきたいですね。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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青海 光 青海 光  都内在住、二児の母。大学卒業後、子育てをしながらIT企業でフ ルタイム勤務をしていましたが、夫の海外赴任に伴い退職。カオスなインドで3年ほど暮らしました。帰国後はライターとして 、育児やライフスタイルに関する記事を中心に執筆しています。楽しく・読みやすく・有益な情報をお届けします!