2016年6月10日 公開

『幼稚園では遅すぎる』って本当!?子育て論の名著を読む

「人間は3歳までに脳細胞の80%が形成される。だからできるだけ早く脳に刺激を与えることで才能豊かな子どもになる」この仮説の見地から書かれた本が、ソニー創業者である井深大氏の書いた『幼稚園からでは遅すぎる』です。いまなお議論の多い刺激的な子育て論をご紹介します。

幼児の可能性は3歳までに決まる!?

タイトル:(文庫)幼稚園では遅すぎる[新装版]
著者  :井深 大
出版社 :サンマーク出版

本書の副題は「人生は三歳までにつくられる!」という刺激的なもの。この言葉にあおられて思わず本書を手に取った人も多いことでしょう。

たしかに人間の脳の8割近くが3歳までに形成されるのは事実です。

ただし、それは脳の容量=箱の大きさに限ったこと。箱のなかに何を入れるかは、その後何十年も続く人生経験によって大きく変動します。

幼児の能力は遺伝ではなく「環境」に左右される!?

モーツァルトの父レオポルトも音楽家でしたが一流ではありませんでした。

しかし、彼は自分の人生のほぼすべてを息子ウォルフガングの音楽教育にあてたといいます。本書もさまざまな事例を引用しつつ「できるだけ早い時期から子どもにあらゆる知的刺激を与え続けることが親の仕事」と唱えます。

「子どもの才能は遺伝ではなく環境で決定される」それが本書の核心です。

「与えすぎ」より「与えなさすぎ」のほうが問題!?

幼い頃から子どもに習い事をさせることには賛否両論ありますが、本書は「3歳までの子どもの脳はスポンジのようにどんどん吸収する」という見地から肯定します。

「刺激を与えないと子どもの可能性を狭める。そのことを親は心配すべきだ」と主張するのです。

真の幼児教育は母親にしかできない!?

本書の最後の章で育児における母親の役割について述べているのですが、「女性にとって育児ほど大切な仕事はない」と断言していることに嫌悪感を抱くかもしれません。

しかし本書は「女性は育児に専念すればよい」という時代錯誤な主張を唱えているわけではありません。

この世界に赤ちゃんを育てることより大切な仕事はないという慈愛に満ちた視点から、「子育ての主役は、父親でも先生でもなく、その子を生んだ母親自身」と叱咤激励(しったげきれい)しているのです。

子育て論はさまざま。妄信は避けましょう

刺激的な本書は論争を生みました。欧米各国でも翻訳され、国内よりも大きな反響を巻き起こしたそうです。専門家から家庭の主婦まで「子育てにふさわしい時期と方法」について意見が飛び交いました。

しかし現在では「本書の主張は数ある子育て論のひとつにすぎない」という評価に落ち着いています。というのは子育てにはマニュアルが存在しないからです。

本書ではたくさんの実例や研究結果を引用して「こうするべき」と強い調子で書かれており、とても説得力があります。

ですが、あまり妄信してしまうと本のとおり実践できない自分を責めることにもなりかねません。

本書にかぎらず、子育て本や教育書は「子育ての視野を広げる参考書」として離れた位置から読むのがオススメです。

著者の真意を誤解しないよう注意!

本書出版から20年後、「子育てで重要なのは母親の愛情。知的教育は言葉が分かるようになってからでよい」と著者は述べています。

著者が「三歳まで」にこだわったのは「母親が愛情を持って触れる時間が多いほど、子どもはすこやかに育つ」ことを訴えたかったからかもしれませんね。

「子どもの才能は遺伝ではなく環境で決まる」というのが本書の核心ですが、その「環境」とは「母親の愛」と読み替えられるのではないでしょうか。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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WRITER

takutaku takutaku  雑誌の編集を経験後、フリーライターとして活動しています。