2021年1月18日 公開

バイリンガルってどんな人?定義やよくある誤解【翻訳家ママのバイリンガル教育】第16回

バイリンガルとはどういう人のことなのか、具体的に考えたことはありますか?バイリンガルの定義やバイリンガルに対する誤解などを紹介します。

バイリンガルという言葉から想像するのは、2言語を高いレベルで話せる人だったり、語学に対する意識が高い人だったりするかもしれません。バイリンガルという言葉のハードルが高いと、子どものバイリンガル教育中に、想像と現実のギャップに悩むことやガッカリしてしまう可能性があります。
バイリンガルの定義や、実際のバイリンガルの言語のバランスなどを紹介しますので、子どものバイリンガル教育や英語教育と向き合うときの参考してください。連載【翻訳家ママのバイリンガル教育】第16回です。

バイリンガルの定義

まず、「バイリンガル(bilingual)」の定義を日本語や英語の複数の辞書で調べてみました。すると、「2言語を流ちょうに話す」や「2言語を母語のように話す」など、2言語を自由に話せることをバイリンガルとして定義している辞書が複数ありました。

また、話すだけではなく「4技能(話す、聞く、読む、書く)を 2言語で同等に上手く使える」ことと定義している辞書も複数ありました。

けれども、実は、2言語をどれぐらいのレベルでできれば「バイリンガル」という世界共通の定義は、存在していません。そして、多くの人が考えている「バイリンガルは、2つの言語を母語同様で同じレベルで使うことができる」というのも、実は正しいとは言えないのです。

バイリンガルやマルチリンガルに対する誤解

筆者は、フランス語が公用語でありながら、英語も日常的に使用されるカナダ・モントリオールで暮らしています。こちらで生活をはじめるまでは、「バイリンガル=2言語を母語のように(自然に)操れる人」だと思っていました。

けれども、実際には英語もフランス語(またはその他の言語)も、まったく同じレベルで使えると自覚している人は、そんなに多くはありません。たとえ、生まれたときから複数の言語環境で暮らしていても、言語ごとの話しやすさ、書きやすさなどがあるようです。

また、2言語、3言語が使える人は「言語に対する意識が高い」とか「語学が得意」と思われがちですが、これも人それぞれです。日本語を母語として、生まれたときから日本語を使い続けていても、国語が苦手な人がいるように、バイリンガルなどのマルチリンガルとして、育っていても勉強としての言語が苦手な人はいます。また、複数言語を使えていたとしても、自分の言語に自信が持てない人もいます。

バイリンガルの分類(言語習得度別)

先ほど、「2言語が母語同様でまったく同じレベルの人は多くない」と紹介しました。ただ、成長過程や文化背景など、バイリンガルを分類する方法は多岐にわたります。今回は、バイリンガルを言語習得度に焦点を当てて説明していきます。

2言語を自由に使える

2言語が完全に同じレベルというわけではなくても、どちらの言語とも母語のレベルで話す、聞く、読む、書くができる人はいます。

2言語を自由に話せる(または、聞ける、書ける、読める)

4技能(話す、聞く、書く、読む)の中で、いくつかの能力は母語レベルだけれども、いくつかは母語レベルには到達していない場合もあります。例えば、日本語も英語も母語レベルで話したり、聞いたりできるけれども、英語を書くレベルは母語レベルには到達していないなどです。

2言語のレベルが明らかに違う

どちらかの言語は4技能とも母語レベルだけれども、もう1言語は4技能ともそのレベルに達していない場合もあります。モントリオールの場合、フランス語を母語として、英語は第二言語レベルという人も多くいます。

また、カナダに移民してきた人の子どもで、親の母語(英語またはフランス語以外)を聞き取ることはできるけれども、話せないという例は多くあります。日本語で話す親に対して、子どもは現地語の英語(フランス語)で話します。

2言語とも中途半端

複数言語環境で育つと、ダブルリミテッドと呼ばれ、どの言語も中途半端になる場合もあります。これは、バイリンガル教育をする際に、確実に避けたい状態です。自分の核となる言葉が持てないと、その他の知的分野の発達にも悪影響が出ると考えられています。

子どもの実際のマルチリンガル度

バイリンガル(マルチリンガル)の具体例として、筆者の息子の言語状況について紹介します。

筆者の息子(12歳)は生まれたときから多言語環境で、現在は英語、フランス語、日本語を使うことができます。

息子自身は、話すこと、聞くことについては、3言語とも同じレベルで、まったく問題がないと考えています。ただ、話すときに、ときどき言語が混ざってしまうことは自覚しています。例えば、「ふとんを PULL して(引っ張って)」というような感じで、日本語の会話に英語が混ざってしまうのです。

息子に聞いたところ、書きについては、どの言語でも苦手意識があるとのことです。親目線の現状は、学習言語であるフランス語は年相応のレベルです。学校の英語の授業は第二言語向けなので、英語が学習言語の人と比べると年相応とは言えないと思います。日本語はひらがな、カタカナと漢字が少し書ける程度です。

読みのレベルは、英語とフランス語は年相応です。息子自身もフランス語と英語でどちらかが読みやすいということはないと言っています。日本語は、漢字をほとんど学んでいないので、自分で読めるのはフリガナのある本です。

バイリンガルの定義はひとつではない

バイリンガルの定義を一文にまとめることはできません。バイリンガルの人の数だけ、バイリンガルの形があると言っても過言ではないのです。ですから、子どものバイリンガル教育を考えるときには、2言語とも母語レベルにこだわり過ぎないことが大切です。どのようなタイプのバイリンガルが子どもの現況に合うのかを考え、無理なく言語学習を進めるようにしましょう。
この記事は執筆時点のものですので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。

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LOA LOA  カナダ在住の英日翻訳者・フリーライター。Web媒体で子育てや語学学習についての記事を多数執筆。8歳の息子が0歳のときからはじめた絵本の読み聞かせは、今では私たちの生活になくてはならないものになっています。これまでに息子と読んだ絵本や児童書は、日本語、英語、フランス語を合わせて数千冊。息子が笑顔になる絵本を見つけるのが喜びです。